進捗日記

うまくいくかどうかは関係ない。何事も経験だ。好きな言葉は「ダメもと」です。

📗この安堵の正体は?『幸せではないが、もういい』ペーター・ハントケ

 


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いいタイトルでしょう?

書評か何かで初めて見かけたときから

このタイトルが忘れられず、

ためしに図書館のサイトで検索したら

ヒットしたので(ありがたい!)借りてきました。

 

この本は、

オーストリアの作家、ペーター・ハントケさんが、

1971年に自殺したお母さんについて記したもので、

訳者は元吉瑞枝さんというかたです。

 

ナチス時代から戦後にかけての

閉塞感に覆われたような日々。

それでもこのお母さんは性格的なこともあり、

何度かささやかな希望を抱くのですが、

そのひとつひとつが失望に変わっていきます。

 

そのさまは、大きな打撃というよりは、

じわじわと真綿で首を絞められるようで、

もしかしたらこの部分に共感を覚えるかたが

少なからずいらっしゃるのではないかと思いました。

(少なくとも私は共感を覚えました)

 

『幸せではないが、もういい』

このタイトルを頭の中で唱えると

なぜかホッとする自分がいます。

この安堵の正体はいったいなんなのでしょう。

 

それはたぶん、

時代の差こそあれ、

このお母さんが感じているような気持ちは、

家のことや子育てを主に担う立場の者にとって

普遍的なものだからなのではないかと思いました。

そして、その気持ちに対してけりをつけるようなこのタイトルに

ある種のカタルシスを感じるのかもしれません。

 

文中に出てくる表現には哲学的な表現も多く、

理解するのがとても難しく感じました。

たぶん一度読んだだけでは理解しきれないと思います。

それから、たとえばネイティブのかたなら

すんなり理解できるようなことでも、

いったん日本語というフィルターを通してしまうと

どうしても分かりにくくなってしまう部分もあるのではないかと推測します。

 

私には英日翻訳の経験があるのですが、

(今は休んでいます)

独日翻訳は相当難しそうだなぁと思いました。

この本のタイトルひとつにしても、

訳者の元吉さんがとてもお悩みになって、

いろいろお考えになった末につけたものだそうです。

(あとがきに書いてありました)

文中にも文法に関する注釈がたくさん出てきて、

解釈の難しさが伺えます。

 

なんだか書きたいことがいっぱいあって、

話が横道にそれてしまいました。

 

この本の中に救いを見出すのはなかなか難しいのですが、

読後感は悪くなかったです。