進捗日記

rule とno rule の間にほんとうの自由がある。

📝箪笥物語

 生まれてはじめて買ってもらった箪笥にはバンビのイラストがついていた。おぼろげな記憶しかなくて、どんなのだったか思い出そうとググってみたら、当時の流行りだったらしく、画像がいっぱい出てきた。小学校に上がる前まで使っていたと思う。何かをたたんで仕舞った記憶はないが、シールがべたべた貼られていたのは覚えている。その頃家には私しか子どもがいなかったので、そのシールはおそらく私が貼ったものだろう。

 次に覚えているのは花柄の箪笥。これは長い間使っていたと思う。親が買ってきたものを、特に気に入ったというわけでもなく使っていたが、家が火事になってしまい、だめになってしまった。幸い人に危害は及ばず、父が営んでいた店が家とは別の場所にもあったので、その日の夜からしばらく店の二階の事務所に寝泊まりした。絶望に近い気持ちとともに、なぜか妙なすがすがしさがあった。このあと最終的に住む家が決まるまで二度引っ越したが、ハンガーラックや衣装ケースでしのいでいるうちに落ち着いてしまい、箪笥は買わなかった。

 そのあと私は結婚した。

 札幌から東京に嫁ぐことになったので、引っ越しで家具を運ぶ費用を考えたら、東京で揃えたほうが安く済むのではないかと思い、そうすることにした。その考えに反対する身内もいなかった。そんなわけで、家に何も家具がない状態で結婚生活がスタートした。あったのは夫が結婚直前に買った炊飯器とこたつとポット(なぜか三点セットでおそろいの柄だった)。それと布団一組。このときにも、ある種のすがすがしさを感じた。

 週末になると、夫とふたりで出かけては家財道具を調達した。最初に近所の家電量販店で照明器具を部屋の数だけ買った(それまでは住居にもともとついていた裸電球で過ごしていた)。東急ハンズでお風呂の小物を買い、食器棚を買い、マルイで本棚を買った。ある日、池袋のパルコの六階にあった家具店の前を通りかかると、籐の箪笥が目に入った。何しろ軽いし、大きさも手ごろなところが気に入ったので、買うことにした。夫がドレッサーも買ったほうがいいと言うので一緒に買った。

 そのあと十回以上引っ越しをしたが、籐の箪笥はどこも傷むことなく健在だ。ドレッサーもしかり。この約三十年の間に息子が生まれ、楽しいこともあったし、そうでないこともあったが、この箪笥が私たちの結婚生活をずっと眺めてきたのだと思うと、感慨深いものがある。